我慢をやめる生き方へ

我慢することをやめ、やりたくないことはやらない生き方を貫いていきたいと思います。

書評その141 ぼくはテクノロジーを使わずに生きることにした マーク・ボイル著 吉田奈緒子=訳

著者はどんな人かというと、一言で言えばお金を使わない生活をしている人です。それだけでなく、電気もガスも水道もネットも使わない生活をしている人です。いわゆる「オフグリッド」生活ですね。電気製品をほぼすべて手放しているので、パソコンもスマホも電話も電動のこぎりも使っていません。(「ほぼ」と書いたのは、この本を手書きで執筆しながらも、最後の清書にタイプ打ちを求められてタイピングをしたらしいからです。)

それで一体どんな生活をしているのか気になりますよね。

この本ではそんな著者の生活が春夏秋冬の季節ごとに日記のような感じで紹介されていました。

日々の生活は、自分の畑の世話と薪になる木材の運搬や加工が多かったように感じました。あとは自分で食べる魚を釣ってくること。当然会社には行っていませんし、いわゆる賃金労働というものはしていません。若い頃は有機食品会社でガムシャラに働いていた時期があったようですが、今はほとんどすべてを自給していらっしゃいました。

彼が使っている「テクノロジー」的なものは、ノコギリや包丁などの手動の刃物、鉛筆、自転車、靴ぐらいでした。

自転車で一日に20キロも走ったり、重たい木材を台車で運んだりしているので、肉体的にはかなり大変な生活だなと思いました。体が丈夫でなければできない生活だと思いました。でも数十年前はみんなこのような生活をしていたんですよね…

現代人は僕も含めて軟弱になってしまったんだなと思いました。

 

僕はこういう生活に憧れるまでは行かないのですが、ゆくゆくはこういう生活に近づいていかなければならないんだろうなという気持ちは確実に強まりました。

煮沸や濾過をしなくても飲める湧き水か井戸があるところに引っ越し、ガスが来なくても困らない薪ストーブや薪風呂を備えた家で、電気は自家発電し、魚や鹿や猪を捕まえて食べる、そういう生活を目指して今から準備していかなければならない気持ちになりました。

ただ、僕は著者ほどストイックに文明の利器を手放したいとは思えませんでした。やはり調べものや楽しみとしてのインターネットは今はまだ手放したいとは思えていません。

著者は人柄が温厚でジョークが上手いこともあって、人間関係に恵まれていました。

近所の人からも好かれ、パブで親しい人たちとお酒を飲み、楽器の演奏を聞いたり、という生活には文明の利器がない不便さはあるものの、寂しさも孤独感もなく、満足感や安心感が漂っていました。彼女がいたのも大きかったと思います。

ネットがあるとネットばかりやってしまい、人との交流をやめてしまいがちなので、ネットがなくても人は幸せになれるという原点に返らないといけないのかなとも思いました。

 

この本の欠点を挙げるとすると、都会育ちの人間にとっては読むのがちょっと大変だったところがあります。

何が大変だったかというと、知らない単語がよく出てきたからです。単語の意味や内容が分からないのでそれをスマホで調べながら読みました。どんな単語が分からなかったのかというと、農業(園芸)用語、林業(木材)用語、植物の名前、鳥の名前、動物の名前、虫の名前、魚の名前、釣り用語などでした。普段から農林漁業に携わっていたり田舎暮らしをしている人ならすらすら読めると思うのですが、僕は分からないことだらけだったので、調べまくりながら読みました。調べないで流し読みすることもできたのですが、それでは理解が浅くなると思ったからです。

 

最後に僕がいつも楽しみにしている著者独特の風刺ジョークと役立てたい豆知識を書き出しておきます。

P.50

 ぼくが育った1990年代には、「自然界の何がなくなってつらく思うか」なんて、誰も聞いてくれなかった。だのにいま、テクノロジーを手ばなしたとたん「機械を使えなくなって何がいちばんつらいか」を誰もが聞きたがる。

P.76

 ロバート・コルヴィルの『大いなる加速」を読んでいる。日ごとに――それどころか毎時、毎分、毎秒、はてはナノ秒単位で――加速していく世界についての考察だ。タブレット端末BlackBerry PlayBookの宣伝コピーを著者は引用する。「価値ある物事はすべて、高速化する価値がある」

 うまいことを言うね、ブラックベリー。「のんびり一時間も二時間もかけて愛を交わさずとも、五分もあればヤれますよ」ってわけか。

P.82

 「でも、とてもじゃないけどできないなあ、食器洗い機を手ばなすなんて」。しかし、彼の言わんとすることもわかる。自分が使った皿をいちいち手で洗っていたら、生態系や社会に起きている――食器洗い機などが引き起こしている――問題について、告発する文章を書いたり反対運動を展開したりする時間を、どうやって捻出できようか。

P.131 

 歩くこと自体を目的に歩くようになったのは、ごく最近だ。ぼくの育った産業文化において、歩いている時間は無為の時間とみなされ、無為は美徳ではなかった。散歩など、現役を退いた老人が健康を取り戻すためにすることであって、これからキャリアを積み、家族を養い、事業を拡大し、健康を損なわんとする若者のすべきことではなかった。

P.147 

 豆知識1…オオバコは天然の抗ヒスタミン剤。花粉症の症状が軽減。オオバコの葉を20枚ほどお湯で煮る。できれば二時間以上。そのお茶を飲む。

P.305

 豆知識2…著者のリンゴ酒の作り方。リンゴの傷んだ部分を取り除く。リンゴをつぶす。どろどろの状態にする。絞って果汁を出し尽くす。そのまま樽に詰めて作業完了。砂糖もイーストも加えず、リンゴのみ。6か月待てば完成。