書評その44 ルポ 定形外家族 大塚玲子著
とても興味深く読めました。やっぱり統計的な話や抽象的な話よりも実例や実話はとても読み易く、印象にも残ります。
父親と母親と血縁のある子供というのが普通の家族だとすると、それに当て嵌まらない家族が定形外家族です。
いろいろな家族が取り上げられていました。
離婚家庭、同性カップル、非配偶者間人工授精の子供、精神疾患の親と暮らす子供、産院で他の子供と入れ替えられてしまった子供、愛人に生まれた子供、虐待された子供などなど…。
いろいろな家族を見ていて、地球と言うのは本当に不幸のデパートだなと思いました。
ただ、定形外家族でも幸せな場合もあるし、定形家族でも不幸な場合があり、家族の形態によって家族のメンバーが不幸になるか幸福になるかはその家族による、という事が分かりました。
親から見たら子供がかわいそうだと思っても、実は子供は気にしていなかったという事もあるし、親の考えでは子供は気にしないだろうと思っていても子供は苦悩していたり自責の念に囚われていたり、という事も分かりました。
親が「子供のため」を思って離婚を踏みとどまる必要はない事が分かりました。子供が求めているのは離婚しない事ではなく、離婚するにしても子供に分かるように説明する事なんだなと思いました。
子供だから説明しても分からないと決め付けず、たとえ子供が小学生だろうと幼稚園だろうと大人の事情もしっかり説明して行く必要があるんだなとこの本を読んでいて思いました。なぜなら、子供は読みが鋭く、大人の嘘を見抜く能力があるので、黙っていてもばれてしまうからです。
印象に残った言葉
・彼女がダウン症の子を育てている、と初めて聞いた時、正直に言うと私も「大変そう」「かわいそう」と思いました。でも実際にダウン症の子どもを育てている親の話を聞く機会が増えるにつれ、自分の思い込みに気付くようになりました。ダウン症は穏やかで優しい人が多く、「癒される」とよく聞きますが、どうもそれは家族にとって、心からの実感なのです。ダウン症の人がいる家族のイメージは、今ではどちらかと言うと、「素敵だな」です。
・子供って、大人が思うよりもずっと言語外の事を感じるから、大人が何かを隠している事だけはよく分かる。すると呪いが掛かるんです。一つは「聞いちゃいけない」、もう一つは「自分がその事についてどう感じているかをしゃべってはいけない」という、二つの呪いです。それは、生殺しの地獄みたいなものでした。親自身も打ちのめされており、子供にどう伝えればいいか悩む事もあるかもしれません。でも子供は我々の気付かない所で、もっと苦しんでいる可能性があります。相手が子供だからこそ、重要な事実はきちんと伝えた方がいいのでしょう。
・厳しい状況にある人に対して、「自己責任だ」と言う人がよくいますよね。あれを聞くと「ああ、いいおうちでお育ちになったんですね」と思います。「あなたも、物心が付いた時から15年間、統合失調症の親と二人暮らしをしてごらんなさいよ」って。
・7、8歳の時には、自ら近所の児童相談所に駆け込んだこともあります。ところが職員は「あんたがかわいくないから、かわいがってもらえへんのやろ。もっとかわいくしてお父さんにかわいがってもらい」と言い、なつきさんは家に追い返されたそう。彼女はそれから長い間、児童相談所をどうしても信用する事ができませんでした。
・私は自助グループに参加して「こんな思いをしてきたのは自分だけじゃなかったんだ」と感じ、目の前の霧が晴れるような気がしました。
・1990年代半ば、東京の東中野で、一人のシングルマザーが”共同子育て”の試みを始めました。集まった10人ほどの人々でシェアハウスのようなものを始めたのです。この共同生活は、ドキュメンタリー映画「沈没家族」(2017年)になり、以来あちこちで上映されている。
・一番よかったのは、家の中で親以外に甘えられる場があった事だと思います。いわゆる”ふつう”の家庭でも、お母さんが感情で子供を叱ってしまう事はあるじゃないですか。そういう時、親でも兄弟でもない赤の他人が客観的に見て「しのぶさん、それはちょっとおかしいんじゃない?」とか、「めぐはちゃんとそれ、やってたよ」とか、フォローしてくれる。育児の相談をできる人が周りにいるのは、多分母にとっても大きい事だったんじゃないかなと。子供一人に対して大人がたくさんいる、という環境は凄く良いと思うし、大事な事。家族という形じゃなくてもいいので、いろんな子供たちにその環境があればいいなと思います。