我慢をやめる生き方へ

我慢することをやめ、やりたくないことはやらない生き方を貫いていきたいと思います。

書評その46 障がいのある人の性 支援ガイドブック 坂爪真吾著

この本は障がい者福祉に携わる支援者向けの本でした。しかし、福祉関係者以外の人が読んでも得られるものはたくさんあると感じました。

特に、障がい者の「自尊感情」にまで踏み込んでいたのはとても感銘を受けました。

障がい者は親を初め、周りの人から受けてきた視線や扱いなどによって、「自分には価値がない」「自分は恋愛や結婚ができる資格はない」と思い込まされ、自尊感情がなくなります。その結果、最初から諦めて何も行動しなくなります。そして社会的自立に向けての意欲もなくなります。そのような意欲のない状態で、さぁ、働きましょう!作業所で面白くもない作業をしましょう!と言われたってやる気なんて出るわけがありませんよね。著者はそこを見抜き、社会的自立と性的自立の間には深い相関関係があると分析しています。

今の日本には、障がい者に対する性教育もないし、障がい者を持つ親や施設の職員に対する性教育もありません。そもそも、健常者に対する性教育もありません。性教育とは避妊とエイズ対策だけではなく、どうしたら恋人を作り、どうしたら上手くセックスできるかなども重要です。しかし、今の日本はアダルトビデオやポルノ動画が性教育の役割を果たしているという何とも寒い現状です。著者は、障がい児に性教育を教える前にまず教える大人の側が性について学ぶべきだと論じています。これはまさにその通りだと思いました。大人自体が何も教わってきていないのですから。

とにかくこの著者は本当に凄いと思いました。たった一人で社団法人を立ち上げて重度身体障がい者への射精介助サービスを提供し、風俗店の待機所で弁護士や臨床心理士社会福祉士による法律相談や生活相談を行う風テラスも運営しています。

今の日本はいろいろな制度が時代に合わなくなり制度疲労を起こし、問題だらけですが、中でも「性」の問題はその核心部分だと思います。その「性」の問題を解決するために、まずは「障がい者」という切り口から切り込んでいく着眼点は流石だなと感じます。「性」で一番苦しんでいるのは障がい者だし、健常者の性の問題に切り込もうとすると道徳論や賛否論で留まり、なかなか先へ進まないと思いますが、「障がい者への支援」という切り口から入ると、道徳論を超えて、いろいろな価値観の人が立場を超えて協力しやすくなると感じました。障がい者への性的支援という一点から突破し、全面展開できるのではという希望を感じました。

日本社会の一番の問題である性的貧困、性的格差、性的飢餓問題にたった一人で突撃している著者の活動は今後とも注目して行きたいと思いました。

 

印象に残った言葉

・まず必要なのは、「子供にどう教えるか」をあれこれ考える前に、性について「大人自身が学び直す」ことです。

・まず知っておくべきことは、「思春期になってからいきなり性教育」は、現実的に不可能だとという事です。思春期の子供は、周囲の大人と物理的・心理的に距離を取るようになります。そうした子供に対してコミュニケーションを取る事、しかも人前で話しづらい性の話を持ちかける事は非常に困難です。そのため思春期に入る前、理想を言えば幼児期から性教育の土壌を作っていく事が大切になります。

・「どうすれば相手と仲良くなれるか」「相手の気持ちになって考えるとはどういう事なのか」を、みんなで話し合う場を設ける事が有効です。大人自身の初恋や恋愛の体験談を話す事も効果的でしょう。

・障がいのある子供は、相手との距離感が上手くつかめない場合があるため、相手をじっと凝視してしまったり、いきなり触ろうとしてしまったり、公共の場で性的な発言をしてしまう事もあります。

・恋人とどう付き合うかについては、出会いから告白、誘い方や断り方などの場面別のロールプレイングや、模擬デートを通して学習する方法が有効です。状況や立場を変えて、相手の気持ちになって考えてみる経験を積む事は、実際の恋愛において非常に役立ちます。

・恋愛のスキルを磨く上でも、相手から届いたメールやLINEの文面をどう解釈するか、好きな人に初めてメールを送るときのマナーなどについて、みんなで話し合う場があると望ましいでしょう。

・中学生の子供に伝えるルールは、たった一つです。それは、お互いが「セックスをしたい」と思うまでは決してしてはいけないという事。

・障がいのある人の場合、パートナーを見つける以前にスタート時点で躓いてしまう事があります。「障がいのある自分と付き合ってくれる相手なんているはずがない」といった思い込みに囚われてスタートラインから一歩も動けなくなる男性もいれば、「障がいがある限り、結婚も妊娠も出産もできるはずがない」とスタートラインに立つ前に諦めてしまう女性もいます。そのため、周囲の支援者には、本人が性を通して自分自身と向き合う機会を得られるようにサポートしていく事が求められます。

・障害のある自分をまるごと受け入れ、肯定する…とまでは行かなくても、ハンディキャップを抱えているという事実に対して、自分の中で一定の折り合いをつけて、健常者を過度にうらやんだり、障がいがある事を過度に卑下することなく、性に対する「自分なりの向き合い方」を見つけ出す事ができれば、そこから「誰かを愛する主人公」としての自覚、そしてスタートラインから走り出すだめのモチベーションが芽生えてくるはずです。

・2013年に日本で公開されたアメリカ映画「セッションズ」。重度の身体障がいのある童貞の男性に、セックスサロゲート(性的セラピー職)の女性が手ほどきをする。

・コミュニティとは具体的には、趣味のサークルや勉強会、障がい者スポーツ、市民活動や障がい者運動、ボランティア活動などを指します。こうした様々な規模・内容のコミュニティへの積極的な参加を通して、多くの人と出会う中で友人・知人を増やしていき、その過程で相性の合う相手と一対一の関係を作っていく…という流れが理想です。

・一方で、事例②の分析で明らかになったように、本人の自尊感情が低いままだと、そうしたコミュニティへの参加自体ができない、という壁がある事が分かりました。

ADHDの人…低い自尊感情を高める。相手が傷付く事は言わない。