書評その94 中高年ひきこもり 斎藤環著
ひきこもり研究・治療の第一人者・斎藤環(さいとう・たまき)さんの本です。
大変読み易かったです。
ご本人は論文などで忙しかった為、口述インタビューをライターさんが書いて、それをご本人が加筆修正して出来上がったらしいです。
「中高年」ひきこもりという題名でしたので、「中高年」に特化した内容なのかと思いましたが、そういう感じは受けませんでした。むしろ、ひきこもり「全般」を総合的に総括した感じでした。つまり「中高年」に限定した話ではありませんでした。
でも内容は良かったです。
何が良かったかと言うと、ひきこもりを責めるような話がなかったからです。
通常はひきこもりを「甘えている」「怠けている」と見做し、説得や脅迫や拉致監禁や暴力や兵糧攻めで対応するのが普通ですよね。
しかし著者は違います。
ひきこもりは苦しんでおり、説得や脅迫や暴力は逆効果になると指摘していました。
就労支援も嫌がっている人には逆効果になるけれど、タイミングが合えば、医療よりも効果的な場合もあると仰っていました。
つまり、元気になってから就労するという流れだけでなく、就労したら元気になった、という例も出てきたそうです。
それは千葉県にある就労移行支援事業所や秋田県藤里町の取り組みの成功を見て感じたそうです。
ひきこもりの支援に一番いいのは、著者によると「オープンダイアローグ」というフィンランド発の治療的対話だそうです。治療者、医療関係者、福祉関係者、本人、家族、友人など複数人で同時に対話していくそうです。1対1のカウンセリングよりも効果が高いエビデンスがあるそうです。議論や説得ではなく違う意見を認め合う場らしいです。面白そうだなと思いました。
著者は精神科医で大学教授でベストセラー作家という凄い人ですが、こういう地位の高い人がひきこもりを抑圧したり就労強要したりすることなく、ひきこもりに理解を示して下さるのは本当にありがたいと思いました。
でも著者のひきこもりへのアプローチは社会学的手法に近いので、純粋に医学的手法を使いたい医者を重用したい厚生労働省からは遠ざけられているらしいです。本当に残念ですね。