書評その124 消えたい ~虐待された人の生き方から知る心の幸せ~ 高橋和巳著
4年前に読んだ本を読み返しました。
内容は愛着障害についてです。
愛着障害とは、母親(またはそれに代わる養育者)との間に愛情関係を結べなかった結果、人と心理的な繋がりを持てなくなり、情緒面や人間関係(仕事、子育て等)に苦しみや困難が生じる障害です。(疾病コード:ICD-10 F94.1)
この本には、親子関係に原因があると気付いてなかった患者が、カウンセリングを経て親子関係に原因があったと気付き、だんだんと症状が良くなっていく様子が書かれていました。
この本を読んで良かった事は、愛着障害を抱えている人は世の中に数パーセントしかいないことが分かったことです。統計的な話は出てきませんでしたが、著者の推定では数パーセントらしいです。僕の感覚でも世の中のほとんどの人とはどうしても根底で分かり合えないと思ってきました。その感覚と符合しました。
著者御自身は愛着障害ではないようですが、愛着障害者特有の価値観を理解しようと努力して下さっていました。そしてその価値観を尊重して下さっていたように感じました。そこはとても嬉しく思いました。
この本で衝撃的だったことは、既存の治療法がほとんど効かないという話でした。でも衝撃的だったと同時に、(やっぱりな…)という気持ちもありました。
最愛の人を失った時に起こるうつには薬がほとんど効かないように、被虐待者のうつにも薬は効かない。なぜなら被虐待者は生まれてから一度も最愛の人と出会ったことがないから。
2、被虐待者には認知行動療法(勘違いを修正する治療法)も効果がない。
被虐者は元々の認知が歪んでいるので認知の歪み(勘違い)を認識できない。なぜなら被虐待者はあらゆる人間関係で孤立し、ネガティブで被害的であるから。
3、内観療法も被虐待者には効かない。
内観療法とは、座禅のように座って過去を思い出して、母親からしてもらったことを思い出して、親からの愛情を再確認する方法。被虐待者の場合は母親からしてもらった恩義よりも虐待された過去を思い出すことになるので、これも効果がないどころかかえって苦痛を与えるだけになる。
それでは著者がお勧めする有効な治療法には何があるのか。
それは、被虐待者自身の存在の不確かさ(あやふやさ)そのものを知ることが有効らしい。「知る」ことが症状を「解除」して存在を取り戻すらしい。隠されてきた自分、隠してきた自分、見られなかった自分、見ないようにしてきた自分を知ること。
今まで気付かなかった自分を知ることこそが真の「自己受容」になり、それによって古い認知や生き方の中で悩んでいた自分が解放され、治癒される。
では、「心」にとって「知る」とはどういうことかと言えば、それは「離れる」こと。
「離れる」とは「外から見る」こと。自分の生き方を客観視すること。
著者はいわゆる通常の治療法(薬物療法、認知行動療法、内観療法)が効かないと言っているのでやむを得ず著者自身のクリニックを調べてみました。でも大変残念なことですが新規の受付が停止になっていました。(コロナの影響ではなく、希望者が多過ぎる為)。でも著者はカウンセラーの教育も行っているようなので、著者の教育を受けたカウンセラーを探すのもいいかなと思いました。